父は亡くなり、母は今、施設で暮らしています。
二人の介護を経験してから、ときどき思うことがあります。
親が元気だった頃に、もう少しいろいろなことを話しておけばよかったな、と。
介護が始まる前は、親の老後について家族で話す機会はそれほどありませんでした。
元気に暮らしている親に、
「介護が必要になったらどうする?」
「家はどうしたい?」
「お金のことは?」
とは、なかなか聞きにくいものです。
まだ早い。
そのうち話せばいい。
私も、どこかでそう思っていました。
でも、その「そのうち」は、こちらの都合に合わせてやってくるわけではありませんでした。
困ってからでは、本人に聞けないことがある
介護が必要になってからでも、決められることはたくさんあります。
施設を探すこともできます。
必要なサービスを調べることもできます。
家族で相談することもできます。
ただ、一つだけ難しくなることがあります。
本人がどうしたかったのかを確認することです。
元気なときなら普通に話せたことでも、体調や認知機能の変化によって、意思を確認することが難しくなる場合があります。
父と母、二人の介護を経験して、私はこの違いを実感しました。
家族が決めなければならない場面になってから、
「本人はどうしたかったのだろう」
と考える。
これは意外と難しいものです。
大事なのは、介護の話だけではなかった
話しておけばよかったと思うのは、「介護が必要になったらどうするか」だけではありません。
実家のこと。
お金や大切な書類のこと。
日常生活で困ったとき、誰に頼りたいのか。
これからの暮らしを、本人はどう考えているのか。
こうしたことは、それぞれ別の問題に見えます。
でも、実際に親の生活を支える側になると、全部つながっています。
介護だけを切り離して考えることはできません。
だからといって、ある日突然、親を座らせて全部聞き出すのも違うと思います。
親にも親の生活があります。
子どもから老後のことを次々に聞かれれば、気分のいいものではないかもしれません。
必要なのは「老後について話し合う会議」ではなく、普段の会話の中で少しずつ知っておくことだったのだと思います。
「まだ元気だから」が、実は話せる時期だった
親が元気だと、介護について考えるのは先のことに思えます。
私もそうでした。
でも今になって考えると、逆でした。
元気だからこそ話せる。
自分で考え、自分の希望を話せるうちだからこそ、
「もしものとき、どうしたい?」
と聞くことができます。
何かを今すぐ決めてもらう必要はありません。
答えが変わってもいいと思います。
ただ、本人がどんなことを大切にしているのかを家族が知っているだけでも、その後の判断は少し違います。
介護は、ある日突然すべてが始まるわけではありません。
けれど、気づいたときには以前と同じようには話せなくなっていることがあります。
その境目は、思っているほどはっきりしていません。
何から考えればいいか分からない人へ
とはいえ、
「親のことを考えておいた方がいい」
と言われても、何から始めればいいのか分からないと思います。
私自身、経験する前ならそうだったと思います。
そこで、自分たちの経験も踏まえながら、親が元気なうちから考えておきたいことを整理するために作ったのが、**「親のこれからナビ」**です。
いくつかの質問に答えることで、今の家族がどこから考え始めるとよいのかを整理できるようにしています。
何かを申し込むための診断ではありません。
「まだ介護というほどではないけれど、そろそろ親のことを考えた方がいいのかな」
という段階で使ってもらうために作りました。
あの頃に戻れるなら、少しだけ聞いてみたい
父と母の介護を二度経験したからといって、今ならすべてうまくできるとは思いません。
家族ごとに事情は違いますし、正解も一つではありません。
それでも、もし親が元気だった頃に戻れるなら。
何か特別な準備をさせるのではなく、普段の会話の中で、もう少しだけ聞いてみたいと思います。
これから、どう暮らしたいのか。
困ったときは、どうしてほしいのか。
そして、親が話したことを覚えておく。
介護が始まってからできることは、たくさんあります。
でも、親が元気なうちにしかできないこともあります。
二人の介護を経験した今は、そのことがよく分かります。
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