認知症になった母と、少し近くなった家族の距離

親と家族

母のいる施設へ面会に行くと、私はいつも母の手を握って話します。

特別なことを話すわけではありません。

家族のこと。

最近あったこと。

昔のこと。

どこまで伝わっているのか、分からないこともあります。

それでも、母の隣に座って手を握ります。

考えてみると、母が認知症にならなければ、私は大人になってから母親の手を握ることなどなかったと思います。

認知症になって、失ったものはたくさんあります。

でもその一方で、以前とは少し違う家族の時間も生まれました。

大人になってから、母の手を握ることなどなかった

子どもの頃には、母と手をつないだこともあったのでしょう。

でも大人になれば、そんなことはしなくなります。

母は母。

私は息子。

それぞれの生活があります。

わざわざ母の手を握る理由もありませんでした。

それが今では、施設へ面会に行くと自然に手を握っています。

言葉だけでは伝わらないこともある。

だからなのかもしれません。

手を握っていると、それだけで少し会話をしているような気がします。

施設に入ってから、母の表情が穏やかになった

母を施設にお願いすることを決めたときには、迷いがありました。

本当にこれでよかったのか。

もう少し家で暮らせたのではないか。

そんなことを考えた時期もあります。

でも、施設で暮らすようになってから、母の表情は以前より穏やかになったように感じます。

面会に行くと、にっこりすることも増えました。

その笑顔を見ると安心します。

認知症が良くなったわけではありません。

以前の母に戻ったわけでもありません。

それでも、今いる場所で母なりの穏やかな時間を過ごしている。

そう思えるようになりました。

妹は毎週、母に会いに行っている

母のところには、妹もよく行きます。

毎週のように面会に行き、肩をもんだり、ヘッドマッサージをしたりしています。

私が母の手を握るのとは、また少し違います。

それぞれが、それぞれのやり方で母と接しています。

認知症になる前なら、母に肩もみやヘッドマッサージをすることが、こんなに家族の日常になることもなかったかもしれません。

母ができなくなったことは増えました。

その代わり、私たちの方が母に触れることが増えました。

不思議な変化です。

母のことをきっかけに、妹ともよく話すようになった

変わったのは、母との関係だけではありません。

妹とも以前よりよく話すようになりました。

母の様子はどうだった。

今日はよく笑っていた。

こんなことを話した。

施設でこんなことがあった。

母のことが、兄妹の共通の話題になりました。

もちろん、母が認知症になったことを良かったとは思いません。

そうならなかった方がいいに決まっています。

ただ、もし何もなければ、妹と今ほど頻繁に母のことを話すこともなかったかもしれません。

介護というと、家族の負担ばかりが語られます。

実際、負担はあります。

でも、家族の関係が変わる方向は、それだけではないのだと思います。

昔の母まで消えたわけではない

認知症になると、どうしても「できなくなったこと」が目につきます。

昔はできたのに。

昔なら分かったのに。

昔ならこんなことはなかったのに。

私もそう思うことがあります。

でも、面会に行って母の手を握り、にっこりする顔を見ていると、昔の母まで全部消えてしまったわけではないとも思います。

私を育ててくれた母。

家族を支えていた母。

元気だった頃の母。

その時間がなくなったわけではありません。

今の母の中にも、これまで生きてきた母の時間があります。

だから私は、認知症になる前の母と今の母を、まったく別の人のようには考えたくありません。

認知症になって、家族の形は変わった

認知症になってから、母との関係は変わりました。

私が手を握るようになった。

妹が毎週会いに行き、肩をもんだり、頭をマッサージしたりするようになった。

そして、私と妹も母のことをよく話すようになりました。

以前と同じ家族ではありません。

でも、家族でなくなったわけでもありません。

むしろ以前より近くなった部分もあります。

認知症によって失ったものは、たくさんあります。

それを無理に前向きに考えるつもりはありません。

ただ、失ったものだけではなかった。

それも、今の私は感じています。

今の母との時間を、そのまま大切にしたい

母が認知症にならなければ、私は母の手を握ることなどなかったでしょう。

妹とこれほど母のことを話すこともなかったかもしれません。

人生は、思っていたようには進みません。

親も年を取ります。

自分も年を取ります。

家族の形も変わっていきます。

昔のように戻すことはできません。

だから今は、昔の母を追いかけるより、目の前にいる母との時間を大切にしたいと思っています。

母の隣に座る。

手を握る。

話しかける。

にっこりする顔を見る。

妹と母の話をする。

それで十分なのかもしれません。

認知症になっても、昔の母まで消えたわけではありません。

そして家族のつながりも、消えたわけではない。

形を変えながら、今も続いています。

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そのときに感じたことは、もう少し個人的な話としてnoteに書いています。
note「認知症の母。『まだ家で暮らせる』と思っていた頃」を読む

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