部下にもAIにも任せたのに、管理職の仕事が減らない理由

働き方・副業

管理職になると、「もっと仕事を任せた方がいい」と言われる。

自分で抱え込まず、部下へ渡す。AIにできることはAIへ任せる。そうすれば、管理職は判断や方向づけに集中できる。

理屈は分かる。

私も、できるだけ自分で手を動かさず、任せる側へ回ろうとしてきた。

それでも、なぜか仕事は減らない。

部下に任せれば、説明と確認が増える。AIに任せれば、指示と修正が増える。

手を動かす時間は減っても、管理職の仕事そのものは、簡単には軽くならなかった。

私たちの世代は、言われたらまず動いた

就職氷河期の頃、上司から仕事を頼まれたら、まず動くのが普通だった。

なぜ自分がやるのか。

何のための仕事なのか。

どこまでやればよいのか。

疑問があっても、先に聞くことは少なかった。

「分かりました」と引き受け、やりながら覚える。

うまくできなければ叱られ、次は失敗しないようにする。

納得してから動くのではなく、動いた後で意味を理解する。

それが仕事だと思っていた。

今振り返れば、理不尽なことも多かった。

説明不足のまま仕事を渡され、失敗すれば本人の責任にされることもあった。

それでも、私たちの世代には「言われたら動く」という習慣が染みついている。

今の若い世代は、納得してから動く

今の若い世代は、仕事を頼むと理由を確認する。

なぜ、この仕事が必要なのか。

誰のためのものなのか。

何をもって完成なのか。

自分にどこまで任されているのか。

私たちの感覚では、

「まずやってみれば分かる」

と言いたくなることもある。

けれど、目的も基準も伝えずに仕事を任せ、期待した結果が出なかったからといって、相手だけを責めることはできない。

仕事の意味を説明し、完成のイメージを共有し、判断してよい範囲を伝える。

そこまでやって、初めて任せたことになる。

管理職の仕事が減らないのは、若い世代が動かないからではない。

人を動かすために必要な説明が、以前より増えたからだと思う。

AIも、曖昧な指示では動かない

AIも似ている。

文章を作ってほしい。

資料をまとめてほしい。

数字を整理してほしい。

そう頼めば、何かしらの答えは返ってくる。

しかも、人より速い。

ただし、目的や条件が曖昧なままだと、返ってくるのはもっともらしい一般論になりやすい。

誰に向けた文章なのか。

何を決めるための資料なのか。

外してはいけない条件は何か。

どこまで簡潔にするのか。

何を根拠にするのか。

そこまで伝えなければ、仕事でそのまま使えるものにはならない。

部下に任せるときと同じで、AIにも任せ方がある。

違うのは、AIは遠慮なく、速く、大量に答えを出してくることだ。

その分、間違いを見つけ、使える形へ直す仕事も増える。

任せても、責任までは渡せない

部下が作った資料でも、AIが作った文章でも、最後に使うと決めるのは管理職だ。

数字に間違いはないか。

条件が抜けていないか。

相手に誤解を与えないか。

組織として出してよい内容なのか。

そこを確認しなければならない。

問題が起きたときに、

「部下が作りました」

「AIがそう答えました」

では済まない。

仕事は任せられても、責任までは渡せない。

だから、管理職の仕事は減らない。

自分で作る代わりに、指示する。

自分で処理する代わりに、確認する。

自分で決める前に、複数の案を比較する。

忙しさの中身が変わるだけで、仕事そのものが消えるわけではない。

管理職は鵜匠だと言われた

以前、年配の上司から何度か言われたことがある。

これからの管理職は、鵜飼いの鵜匠だよ。

当時は、よく分からなかった。

鵜匠は、自分で魚を捕るわけではない。

鵜を川へ放ち、泳がせ、魚を捕らせる。

ただし、完全に自由にするわけでもない。

綱を持ち、動きを見て、必要なところで引き戻す。

どの鵜を使うのか。

どこへ向かわせるのか。

いつ任せ、いつ止めるのか。

最後に成果へつなげるのは、鵜匠の仕事だ。

部下に仕事を任せることも、AIを使うことも、これに近いのかもしれない。

自分で全部やっていては、組織は広がらない。

かといって、すべてを任せきればよいわけでもない。

自由に動かしても、綱は手放さない。

管理職の仕事は、作業から設計へ変わった

昔の管理職は、自分が一番仕事を知り、自分が一番速く処理することで信頼を得ていた。

今も、その力が必要な場面はある。

ただ、部下の考え方も、使える道具も変わった。

これからは、自分が何でもやる人より、

誰に何を任せるのか。

AIにはどこまで任せるのか。

どこで確認するのか。

誰が最終判断するのか。

その流れを作れる人の方が重要になる。

管理職の仕事が減らないのは、任せ方が下手だからだけではない。

任せる相手が増え、任せ方そのものを考える仕事が増えたからだ。

鵜を泳がせても、綱は手放さない

私たちの世代は、言われた仕事を黙って引き受けてきた。

けれど、これからの管理職は、それだけでは人を動かせない。

部下には目的を伝える。

AIには条件を与える。

途中で確認し、最後は自分で判断する。

任せることで手を動かす時間は減る。

その代わり、考える仕事と責任は残る。

昔の上司が言っていた「管理職は鵜匠だ」という言葉が、AIの時代になって、ようやく分かる気がする。

鵜を自由に泳がせながら、綱は手放さない。

それが、これからの管理職の仕事なのだと思う。

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