20年以上通う理容室が、息子の店になる

未分類

近所の理容室へ行った。

もう20年以上通っている。

店主ご夫妻は、私より少し年上の50代だ。

いつものように椅子に座ると、店をリニューアルする話になった。

外へ修行に出ていた息子さんが戻り、店を継ぐという。

ご夫妻は店を離れるわけではない。

しばらくは手伝いながら、少しずつ前線から退いていくそうだ。

鏡の中に映っていたランドセル

その話を聞きながら、昔の光景を思い出した。

髪を切ってもらっていると、店の鏡越しに、ランドセルを背負った少年が帰ってくる姿が見えた。

「ただいま」と店の奥へ入っていく。

あの少年が、外で技術を身につけ、今度は父親の店を継ぐ。

時間がたったのだと思った。

息子さんが大人になったというだけではない。

店主ご夫妻も、自分たちが中心だった店を、次の世代へ渡す年齢になった。

そして、その変化を見ている私も、20年以上年を重ねている。

継ぐのは、店だけではない

店を継ぐと聞くと、看板や建物を受け継ぐことを考える。

けれど、実際に引き継ぐのはそれだけではない。

長く通ってきた客。

いつもの会話。

この店なら安心して任せられるという信頼。

店主ご夫妻が何十年も積み重ねてきたものを、息子さんは受け取ることになる。

もちろん、同じ店をそのまま続けるわけではない。

リニューアルをすれば、内装も雰囲気も変わるだろう。

若い世代のやり方も入る。

昔からの客には、少し落ち着かない変化かもしれない。

それでも、何も変えなければ店はいつか終わる。

残すために変える。

家業を継ぐというのは、そういうことなのだと思う。

前に立つ側から、支える側へ

印象に残ったのは、ご夫妻が「手伝う側に回る」と話していたことだった。

自分たちが作ってきた店である。

口を出したくなることもあるだろう。

客も、自分たちについてきた人が多い。

それでも、少しずつ息子さんへ任せていく。

仕事を続けることより、仕事を渡すことの方が難しい場合もある。

教える。

任せる。

失敗するのを待つ。

必要なときだけ支える。

自分が前へ出た方が早い場面で、一歩引く。

それも、50代からの大切な役割なのかもしれない。

次に髪を切る人

次に店を訪れたとき、店内は変わっているかもしれない。

髪を切る人も、いつか息子さんへ変わるのだろう。

少し寂しさはある。

けれど、楽しみでもある。

鏡越しに見ていたランドセルの少年が、今度は鏡の前に立つ。

20年以上通ってきた店の時間が、静かに次の世代へ移ろうとしている。

店が変わっても、また通おうと思う。

それが、長く通ってきた客にできる、ささやかな応援なのだと思う。

この記事が印象に残ったら、♡を押していただけるとうれしいです。

コメント